この着物が初めて袖を通されたのは私の母が成人式に出席した時だそうだ。

 その時私は多分2歳か3歳位だっただろう。そして、母の妹二人が順に袖を通し、確か祖母の従兄弟の娘がその次に袖を通したそうだ。そこから十数年後、従兄弟がようやく袖を通す時期となった。

 現代において着物を着る機会というものは一般的には成人式や結婚式位なものだと思う。しかし、その一つ一つが記念に残る様な行事であり、記憶に確かに微かに残っていくのだろう。
 そう考えた時にこの着物は5人とそこから広がる数名の記憶のどこかに存在しているものになる。それが多いのかどうかは解らないが、何とも不思議なものだなあと思う。

 そして、そこから広がる数人の内に私も含まれる。久しぶりに見たという感覚が私には何故だか存在していて、何だか懐かしい気分になったものだ。
 それはその着物があまりにも現代的ではないという事にも起因しているのかもしれないし、どこかで見た記憶が想起されたからなのかもしれない。


 次にこの着物に袖を通すのは私の妹だろう。その時もまた是非写真を撮りたいものだ。