晴天。これ以上無いほどの天候に「今日はいける」と根拠なき自身に胸を高鳴らせ再びダークサイドへ。

 クリスマスイブという事なのか、前日の雨のせいなのかグラウンドは閑散としていてなんだか寂しい感じもするが、この位の方が落ち着くというものだ。一年ほど前に撮らせていただいたホームレスに挨拶に行きがてら台風の時の状況を色々と教えてもらい。犬をもてあそんだ。


 イガグリ頭の少年三人に「仲間に入れて!」と交渉した所あっさり仲間に加えてくれた。おまけになぜかノックをするはめになってしまい元気な少年相手に10分ほどノックをした。いつも子供と遊ぶと思うが、どうやら体力が落ちてきている様ですぐに息が上がってしまう。
 息が上がった所で撮影をさせてもらおうと思ったら親と一緒に来ていた様で、いささかやりにくさを感じたもののなぜかお礼を言われたので恐縮してしまった。

 二人兄弟はいたずらし合い中が良く、もう一人はそれをなだめると言った感じで、その子にももう一回り小さい弟がいた。戯けて見せるその表情に思わず笑みがこぼれてしまう。


 建築途中の建物のスケッチをしている老人。多摩川についてタバコを吸い、フィルムを入れている所に一言「ハッセル!?」と言って過ぎて行った老人だった。

 近くに住んでいて、ここには良く来るというその人は、私の「以前はどういったお仕事をされていたんですか?」という質問に「あれ」とアゴをクイッと右へやり答えた/どうやら建築なのだろうと思い、いつくらいに止めたのか、年齢はいくつなのかといろいろ質問をしている最中ボソリと「嘘だよ」と言った。
 可愛らしい女性が不意に言うのであったら大歓迎だが、老人がいきなり発するにはどこか狂った印象を受けてしまう。不意に投げかけられた言葉に「・・・?」といった感じになりながらもとりあえず笑っとけと思い笑ってその場を去った。
 実に謎めいたその老人は僕が去った後も熱心に上手くはないスケッチを熱心に続けていた。顔も白くて白髪で、テロンとしたその顔がなんだか不気味に思えてしょうがない。


 「猫を捨てないで」と書かれている看板の横の猫をひたすらに撮っていると後ろから声がした。振り向くとそこには優しげな老人が立っていて、手に何やら買い物袋をぶら下げていた。「愛護団体に頼まれてね。」と言いながら猫に歩み寄り5匹程の猫の名前を呼んでいる。袋から出てきたのは予想を裏切らず餌で、それと同時にワラワラと何処彼処から猫が現れる。
 競馬練習場の裏にあるそこは様々な事柄が混ざっていて「猫を捨てないでください。」「猫に餌をあげないでください。」「この猫小屋を撤去しないでください。by動物愛護団体」と何がなんだか解らなくなる様なカオス状態であるが、老人は長らくここで餌をあげ続けているという。

 川が数年前に広くなった事、きゅう舎の奴らが朝に来ると文句を言うので少し遅らせるという事、良く悪戯をされるがどうやら男性ではなく女性がやっているという事、あの猫は飼い主に酷く虐められ自分でも触れる事がなかなか困難だという事、この猫は兄弟であれが親だという事、もう少し離れたところにもう一つ同じ様なものがありそっちはホームレスが世話をしているという事、ここら辺は馬の関係でなぜか犬はだめだが猫なら何とか許してもらえているという事、スーパー堤防を少し下流で作っているという事、色々聞きすぎてよく覚えていないが、良く喋ってくれる老人だった。

 本当に猫が好きそうな事はそぶりを見ていれば解る。


 ここの空気は何か懐かしい記憶を彷彿と甦らせる。主に人工物で作り上げられた中に微かに見える非人工物。どこかそれは殺伐とした感じを受ける。エロ本が落ちていて、カモメがいて、猫がいて、自分の田舎の港を思い出す。
 僕は多摩川に郷愁を感じているのかもしれない。郷愁を探しているのかもしれない。

 どうやら去年のクリスマスイブも近くに来ていた様だ。川崎にはクリスマスイブに誘われやすいというジンクスがあるのかもしれない。


 メモ;馬が走るのは夜中の2時から朝10時。