徐々に曇っていき最終的には太陽が隠れ急激に体温を奪っていく。歩みを止めればそれは明確に実感出来て、ゆで太朗が恋しくなる。そんな日。


 大物が釣れた。75センチオーバーのフナだ。ここまで大きいものを私はあまり見た事が無かった。初老の男性も久しぶりだと言いとても嬉しそうだ。フナは威勢良くのたうち回りなかなかピントを定められずに時間が過ぎていく。
 晴れていれば大体来ているという初老の男性はそのフナを手に持ち「持った方が大きさが解りやすい」と言って私の前に見せてくれた。その後、食べるには真水に一週間くらい(だった気がする)入れておかなければいけないと教えてくれた。


 鳩にエサをやっている姿を横目に見ていると私のウエストバック型カメラバックを見て「腰、重そうですねー」なんて声をかけてきた。整った顔立ちに小柄な体系が何だかとてもキャッチーなその男性はアサヒスーパードライを飲みながら私に色々と話し始めた。
 私の生まれた年と同じくらいに奥さんに先立たれ二人の子供を溝口で育て上げ、2年程前から登戸の方へ越してきたそうだ。最近では孫ができ手長エビや沢ガニ、ドジョウなどをせがまれ多摩川でゲットしては孫へ持っていっているそうだ。自身も子供もみな独り立ちし寂しいらしく猫や犬などは飼えないのでもっぱら魚で、水槽に雨水をコンスタントに入れる為のシステムを自作するまでの勢いだそうだ。
 60を過てみすぼらしい格好をしたくないと言う彼は酒の飲む量をしっかりとわきまえているそうで、今日は仕事が休みでたまたま飲んでいるだけだと弁解している姿が何だか滑稽だった。

 座っているベンチの目の前の花壇の様なものは毎朝5時くらいに一人のおばさんと数名のおじさんで作った話や、途中訪れたおじさんがホームレスで昔少しだけ世話をしてやったら当たり前だみたいな顔をし出したので今じゃあんまり話をしない様にしている話や、また途中訪れたおじさんの持っている松ぼっくりを見て声をかけ園芸話や河川、撮りに関する話を色々と話していた。

 かれこれ45分以上は話していた様な気がする。とても話し好きなおじさんだ。何だか切なくなってしまう。


 始めのうちの太陽が見え隠れするくらいの心地のいい時間のなかで、河川工事の進行状況を眺めたり(水がもの凄く引いていて中州まで歩いていけるくらいの勢いだが、全然進んでいない。)、猫をいてこましたり、足にまとわりつく種を取ったり、火事の残骸の横でバーベキューをしているシュールな現場を眺めてみたり、腰を痛めてみたり、やたらとたき火をしている風景に違和感を覚えたりしいてたら、気温が下がってきてもの凄く寒くなってきて嫌になって帰った。
 今日も平和だった。