秋の匂いがする。物凄い勢いで迫ってきて僕の耳を、僕の体を、僕の心をいっぱいにしていく。

 あの日の体温、音、現状、世界。全てが鮮やかとは言いがたい色で迫ってくる。

 それら全てが僕の脳を駆け巡り、錯乱させる。

 ここではないかつてのその時間に少しだけ転送されるような。そんな感覚。

 目を開けているのに目の前には違う光景。ダブって見えるその画にどこか違和感を覚えながらうつろに歩く足取りはしっかりとコンクリートを踏みしめて、それでもどこか浮き足立っていて、くわえる煙草すら忘れる位の感覚。

 落ちた灰で気付く錯覚。錯覚から起因する目覚め。

 奮い起こすべき感情をどこか忘れさせてくれるこんな日は嫌いではない。