曇天、小雨交じり、平日、午前10:30、多摩川にはホームレスと工事現場作業員以外は誰も居ない。

 寒くて手がかじかみ下手な写真がなおさら下手にでもなりそうな気もしてくる。

 眼前には刈られたばかりのススキが雨に打たれていた。


 誰もいないグラウンドのベンチにポツンと佇む老人は近所に住んでいるそうだ。昔からそこに住んでいる彼は昔の多摩川を語ってくれた。ここら一帯は湿地帯で、そこら辺にクレソンやら何やらと生えていてよく採りに来たそうだ。
 後2.3キロはなれたところでは鳥達が子育ての時期になると見事なものだそうで、野鳥愛好家達のメッカになっているそうだ。

 そう語る彼は、僕が話しかけたことを何だか嬉しそうだった。

 老人と別れてまもなく雨だと言うのに一人サッカーをしている青年と遭遇する。断られる事を前提で腰を極低で声をかけてみると意外にもノリノリで、どこか照れくささを感じさせる仕草をしていた。
 僕が言うと気持ち悪いが、「かわいい」といった印象を彼は与えた。

 試験の振り替え休日で訪れていた彼は「今体なまってるから出来るかなあ」と言いながらも僕の無理なお願いを聞いてくれた。ボールを見ないでリフティングなんて出来るのかと思ったが意外と出来ていて驚いたものだ。
 次にさっき眼に留まった割れたプラスティック製のベンチに腰をかけてもらってその隙間から顔を出してもらうと言うどこかアイドルチックな要望にもはにかみながら応じてくれた。


 悪天候と、平日というだけで僕は人を撮らないだろうなと思い込んでいたが、意外にも平常どおり2人撮影した。また、タイミングの妙を感じてしまう。そして、初の演出をした。


 冬の雨、冷たくジャンバーを打つ音はどこか懐かしさを思わせる。眼前の風景と重ねる思いはやはりどこか僕の原風景の様で何だか感傷的になってしまう。しかし、そこには僕の思いとは裏腹に様々な現実が横たわり、声をかけてくる。
 自分の思いばかりに浸ってはいけないなと、思えるそんな一日だった。