「自殺なんてわざわざしなくていいじゃん。」

 なんて僕なんかはよく思ってしまうけれど、そんな状況になった事の無い僕にはそんな気持ちを知るよしもなく、ましてやそうせざる終えない状況なんてものは想像もつかない。


 一昔前に「人はどうして死にたがるのか」なんていう本を読んで「それは種の存続の為の最良の手段の一つと誤認してしまい自殺へと向かってしまう。それは一種の本能だ。」

 なんて感じの事が書いてあって、安易に「そうなのか」なんて思ってしまったけれど、自制していたはずの本能が露となってしまう様な現実的状況から生まれる心理的状況というものはどれだけ恐ろしいものなのか。と、深々と考え込んでしまう。
 いや、考えても出て来る様なものでも無いし、もし出てきたとしてもそれは真実ではない。おまけに「すみませんがどうして自殺したんですか?」なんて事も、死んだ人間には通用しない。死人に口無しとは正にこの事なのかと痛感してしまう。

 速い所さっぱり解からないのだ。しかし、残された人間の悲しみというものは実に深く根強いもので、数年経ってもその時の事というのはなかなか忘れられない様だ。

 その悲しみを一粒残さず掬い取れるのならば、そうするべきだと、そう僕は思った。