秋の雲が若干太陽を隠すほかは申し分の無い天候だ。

 そこそこの回数を行っているであろう下流域。しかし、未踏の地というものは存在するのであった。

 ホームレスホームが軒を連ね、顔見知りであろう釣り人と談笑している。ポツリポツリとカップルが座り、小汚い川辺を眺めてささやき合っている。猫が縦横無尽に行き交い、川鵜の屍骸をウジ虫が食い荒らす。
 魚の屍骸は乾涸びて、赤ちゃんの人形は土に埋まる。「猫に餌をやらないでください。」という立て看板の横には丸く可愛らしい猫がベターっと寝そべっている。


 あるカップルというにはいささか歳を重ねすぎた二人。化粧の濃い女性に日光が当たり陰影を強調して反射してくる。後ろから手を回している男性はどこか障害がある様な顔立ちだ。しかし、どこか優しさがあるその風貌になぜだか親しみを感じた。
 近くに住んでいる訳でもなく、ここに思い入れがある訳でもないのに、多摩川と言えばここに来るという二人。「大変ですねえ」と声をかけられ、かえってこっちが驚いてしまう。

 理由の知れぬ魅力にあふれた二人を早くプリントしたいと思った。


  さながらそこはダークサイド。多摩川の悪しき情景を詰め込んだのではなかろうかと思うほどの荒廃ぶりに閉口せざる終えない状況だ。が、黙って無人の地を歩く事ほど怖い事は無いので、独りブツクサ言いながら足を進めては立ち止まる。
 夕日がまぶしいその先には謎の鉄塔。ホームレスらしき男性が言うにはテレビ塔という事だが、にわかには信じがたい。


 秋はやっぱり下流がいい。