雲が薄く立ちこめる。桜は奇麗に咲き誇り、ふとした拍子に嗅覚を優しく刺激してくる、そんな肌寒い日だった。


 天空橋をおりて、謎の鳥居を過ぎたとたんにに話しかけてきたおばさんは80歳を超えていた。今日は珍しく外へ出て、戦争の時になくなった人達を祀っている所を回っていたそうだ。近くに3つあるそれら全て今日は制覇できたと喜んでいた。
 嫁に来て以来ずっと住んでいる彼女は戦争の時の話をあまりつらくはなさそうに延々とはしてくれた。終戦直後は羽田空港のゴミ拾いを半日180円でやっていたとか、ここら辺はあまり空襲が少なかったとか、B29がで空を飛んでいくのをじっと見ていたとか、色々と。

 別れを告げてもなお話しかけてきて、ついてきて、まるで犬の様だと思った事を今では不謹慎だと思っている。きっと、寂しかったのかもしれない彼女は今娘と暮らしているそうだ。


 場所取りの苦労も入らない程のスカスカぶりは見ていて不思議なくらいであった。しかし、やはり花見シーズンだけあって今まででは考えられない程の人間がいて何とも不思議であった。